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原点回帰の先に見えたもの。(オステリアのディナー&コラム)

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原点回帰の先に見えたもの。(オステリアのディナー&コラム)

今年の頭から原点回帰シリーズが多かったのですが、今月は結構新作多いですね。

 

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まず今月の一皿目。

ピットレという簡単に言うとプーリアのカジュアルな揚げピザみたいな物です。

もちろんジラソーレでそのシンプルな形でお出しする訳でもなく、この生地特有の素朴な美味しさ、でも生地として結構インパクトのある美味しさもありますし、中々妖艶な食感も練り方の工夫で出せるのを最大限に活かし、ピットレの生地で一塩当てて一晩寝かした甘鯛を包んで揚げました。

カリっ、モチっ、フワっ、トロっ。

小宇宙ですよ。

我ながらイカしたスタートです。

 

 

お次。

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タコの温かいカルパッチョ。

見た目普通ですが、完全に新しい料理(ジラソーレ的にだけでなく)だと思います。

蛸にとって吸盤とは何なのか?

という事を考えまくった料理です。

吸盤を脱ぎ捨てたタコは、僕が思っていた以上に女性的でもあり、個性的でもありました。

タコの吸盤を一度脱がし、もう一度僕好みに着させました。

更にタコ愛が加熱中です。

 

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サワラとイチジクとゴルゴンゾーラ

毎年この時期の定番になりました。

この料理も3,4年前に作りだしたときは、お客さんにえー!半生の鰆とイチジクとゴルゴンゾーラのソースが何で合うの!!!

と結構びっくりして頂いてましたが、今やこの組み合わせすら安定の美味しさと感じる僕。

来年あたりスーパーブラッシュアップアイディアが出るかも知れません。

 

と、この3品を見て、どこが原点回帰なん?と突っ込まれそうですが、地方料理、伝統料理に立ち返ってそれを徹底的に見直す作業もしています。

この鰆の料理なんかは、地方料理、ナポリ料理を最大限リスペクトした結果生まれた料理と言えます。

まずナポリにサワラは居ませんので、似た感じの魚を思い浮かべます。

僕が最も近いなと思ったのがカジキマグロ。

生でも加熱しても美味しいし、熟成させると少しトロっとしますし。

それで16年前はカジキのレシピでサワラを料理してました。

それで満足でした。

そのうちよりサワラに合いやすい工夫を始めます。

切り方とか、焼く温度とか。

サワラも生でもよく使ってました。

カジキと同じようなマリネにしたり。

普通に美味しいですし、ある意味メッチャイタリア感満載な料理に仕立てれますし、何より以前は今よりもっと【現地そのままのナポリ料理らしいで】と、ちょっと誤解されてた部分もありましたので、少し期待に添えようとしてた部分もあったかもしれません。

でもね、やっぱり瀬戸内の鰆って滅茶苦茶美味しいんで、そのうちバカでも気づくんです。

あれ?カジキよりサワラの方が旨いんちゃうん?って。

なら、鰆をカジキのように料理したらあかんやん。逆やん!となるのが普通です。

料理の原点回帰を考えると必ず素材に立ち返ります。

逆に言うとそれが料理というもんです。

 

秋の鰆の美味しさに衝撃を受け、そして贅沢な事に同じ海域で取れた鰆をその春にも料理してます。

春も美味しいですが、秋はいわゆる脂がのっています。

魚の身の色も全然違います。

同じ料理法で良い訳がありません。

 

むしろあまり手の込んだ料理にしたくない位美味しい。

何よりこの魚が持つ繊細な脂の美味しさを損ねたくない。

ここが一番のポイントでした。

一番したらダメなのがオリーブオイルを掛ける事。

オリーブオイルを何にでも掛けたがる人が結構いますが、僕は反対です。

パンにも、生ハムにも、モッツァレラチーズにも、お肉のグリルなんかにも掛けたがる人いますが、昭和前半の方が味見もせずカレーにウスターソース掛けてるのと同じに見えます。

オリーヴオイルは一般的に思われるほど万能ではないと思います。

基本味が強すぎます。

まあ言うてかなりドボドボ使ってますが。

 

あぶらっけには2種類あります。

油と脂

イタリア人は油に対する罪悪感が少なく、脂にはやや嫌悪感を示します。

日本は逆で脂信仰、トロ信仰、サシ信仰の方が多いかも知れません。

そこにオリーヴオイルはヘルシーという訳の分からん洗脳を受けてるから、脂に油を掛けたがります。

これは料理上かなりの確率でNGです。

油はあぶらっ気のない物に使うべきです。

豆腐にオリーブオイルはありですが、フォアグラにオリーブオイルはなしです。

 

でも脂に脂は合わせれます。

カマンベールチーズやブリ―の乳脂肪に対してバターを乗っけて食べても美味しいもんです。

フォアグラのソテーにポートやマデラワインのソースを添えますが、ソースには結構バターが入ります。

バターが乳化してれば大丈夫。そんな脂っこい気がしません。

脂に対して一番効果的なのは塩分です。必要と言っても間違いじゃないですね。塩がキツイ必要はありませんが、足らないと脂に対して気持ち悪くなります。

 

この鰆の料理は、この素材の脂に対する油脂および調味料の使い方が非常に理に叶っています。

まず脂の乗ったサワラを軽く炙る事で鰆の持つ脂がより口どけの良い物になりつつ、活性化した魚脂が焼けるスモーキーな香りはとても美味しそうな香りになりますし、炙った後はナポリのアンチョビ魚醤で味を付けます。

脂に対しての塩分ですね。

まずこれで一回完成した美味しさになります。

そこに、イチジクとルーコラとクルミのサラダが加わります。

現時点で完成しているサワラに無理やりイチジクなどの添え物は邪魔でしかありませんが、現時点で完成しているサワラと後からやって来たイチジクとクルミとルーコラを橋渡しすることが出来る存在がゴルゴンゾーラのソースです。

そうですね。これは油でなく乳脂肪。脂です。

そしてゴルゴンゾーラもアンチョビ魚醤も発酵食品同志で、実は相性がいい。

クルミ、イチジク、ルーコラとゴルゴンゾーラの相性がいいのはウィキペディアにでも載ってます。

という風に、奇をてらった組み合わせの様で理に叶ってます。

どう考えてもサワラをグダグダにトマトで煮込むより、レモンで白く色が変わるくらい酸味とオイルに漬かっているマリネより、鰆として必ず美味しい料理であると断言できます。

こんな具合に、一見創作料理に見えるものも、実は素材をクローズアップし続けて見えた断面や表情を大胆に表現しているのであって、必要な工夫な訳です。

そして密かにこのイチジクはサレルノやナポリで主流の品種を日本で作ってもらってるという裏話も日ごろあまり言いません。

特別な工夫でなく必然だと思ってますから。

 

一方で、スパゲッティペスカトーラがどこまでバカ丁寧に作れるかの挑戦もしてます。

かなりじっくり、素材以外の水分を全く足さないように作ったペスカトーラは海を食べてる気がします。

 

原点回帰をテーマに料理を見つめなおすと、素材が見えてきて、自然が見えてきました。

そして’’食べるという事’’に対しての考え方も変わりつつあります。

その上でイタリア料理をきっちり作っていこうと思います。

もしかしたら皆さんが知っているイタリア料理とは少し離れていくかも知れません。

でもそれは考え方を変えるとイタリア本国でも誰もまだ取り掛かっていない、これからのイタリア料理の模索を僕が先に始めているだけかもしれません。

決して商業的モダンアートみたいでもなく、懐古主義でもなく、この瞬間のイタリア料理、ナポリ料理を発信していきます。

 

原点回帰をテーマにしたら凄く未来が開けました。

 

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