潮の香りの手打ちパッケリ オール播磨灘バージョン
潮の香りの手打ちパッケリ オール播磨灘バージョン
Paccheri fatti a mano al profumo del golfo di Harima
潮の香りの手打ちパッケリ オール播磨灘バージョン
22年前の僕は焦ってました。
何とか這い上がらないと…
勢いと勘違いだけでジラソーレをオープンしましたが、当初は完全な負け戦でした。
お客さんが来ない。
10坪だった当時の店のドアが外から開くイメージが持てなくなっていたくらい、お客さんが来ませんでした。
今となれば理由は1万個くらい上げれますが、間違いなく1番の理由は自信は無いクセに自分は天才だと思っていた事です。
ですので他人の話し、助言を聞きません。
他者の成功事例をなぞるなんて、まっぴらごめんでした。
僕は僕のやり方で勝負してやる、と鼻の穴広げてましたが連日連敗でした。
まだジラソーレがあるのはマジで奇跡です。
子供の頃本気でサンタさんを信じてた僕は大人になっても純真で、誰もが認めるスペシャリテさえあれば必ず逆転出来ると信じてました。
そんな思いで生まれたのが初代、潮の香りのパッケリです。
このパッケリという筒状のパスタは今でこそ日本でも時々見かけますが、22年前は日本ではほとんど知られておらず自分でイタリアから輸入してました。
当時ナポリのレストラン業界で大流行してた形状で、どの店もパッケリを使ってスペシャリテを考案してやる!と燃えてました。
日本から勝手にパッケリバトルに参戦してた感じです。純真です。
日本ではスパゲティ以外のパスタは中々人気が出ない、と沢山の助言を頂きました。
へー、そんなんですね。
僕は自分でスペシャリテと思える物を考案しているのであって、人気商品を作りたい訳ではありません、とお答えしてました。
お分かり頂けましたか?
お客さんが来ない理由…苦笑
それでも何とか生まれた訳ですよ、
この潮の香りのパッケリ。
見た目地味ですが、めちゃくちゃ斬新な料理です。
ソースのベースを作るのに1分かかりません。
シンプルなアリオ、オリオ、ペペロンチーノのベースです。
そこに茹で上がったパスタを和えながら、牡蠣、イカ、ウニ、サザエ、トコブシなどの生の魚介類を投入し、パスタと和えながらそれぞれ魚介類にジャストな火入れをし海の香りを引き出します。更に出来たパスタは超絶熱々。
シンプルだけど、作るの超絶難しい。
これこそ僕が思うスペシャリテです。
よっしゃー、と僕の頭の中ではロッキーのテーマが流れていました。
でもね、次の日からも当たり前の様にお客さん少なかったです。
今みたいにネットやSNSがある訳でもなく、僕の潮の香りのパッケリはほとんどオーダーされる事もなく、スパゲティ プッタネスカを作る日々が続いてました。
しかし純真な僕を見かねてサンタさんが、でっかいプレゼントをくれました。
ミシュランや食べログが出てくるまで、関西の食情報の唯一神、あまから手帳に掲載されました。
初登場見開き堂々2ページ。
もちろん潮の香りのパッケリ引っ提げて。
もうね、電話鳴りっぱなし。
暇慣れしてるから身体動かない。
1年通してパッケリしか通らない。
嬉しい反面、次の新作なんて誰も見向きもしない。
パッケリがプッタネスカになっちゃった。
モノ作りにおいて最も難しいのは経済的成功と職人的成功の完全両立。
30歳前にこの事を知ったのは財産でした。
この潮の香りのパッケリで僕は賞賛と新たな挫折を同時に手に入れました。
そして料理人って、どんだけこれの繰り返しが出来るかの戦いだとも覚悟しました。
あまから手帳に載った事により、他の雑誌からも沢山取材頂く機会に恵まれ他の新作や季節ごとのお勧めも試して頂ける様になりました。
それと同時にスペシャリテにも耐用年数があると気付きます。
数年後、このパッケリは手打ちになります。
本来このパッケリという大きなショートパスタは一口で一個食べるのが理想です。
お寿司を噛みちぎるか、一口で食べるかに似てます。
料理をお出しする時、お客様には出来たら一口で1個お召し上がりくださいとお声掛けしてましたが、いかんせんデカイ。イタリア仕様です。
日本の女性のお客様にはちょっと無理な注文です。
パッケリを始めたころ、パッケリをナイフで切るお客様を見るたび胸がチクチク痛んでました。この性根もお客さんが少なかった原因であるのは間違いありまへん。
笑顔と挨拶は自分から
そう、こちらが変われば良いのです。
売ってる乾麺のパッケリがデカすぎるなら、ちょうど良いサイズを作れば良い。
この様にiPhoneが進化する様に、潮の香りのパッケリも少しずつ変化してきました。
さて、やっと今回の話しです。
潮の香りのパッケリバージョン3
今年の新年初競でマグロとウニが神への冒涜かというような値段で話題になっていました。
ウニがいよいよヤバイです。
残念な事に品薄で超高額になると次のステージのニーズが生まれ、擬似特権階級体験の為に超高級食材が大人気です。
そこに群がる消費者の方々は、きっとジラソーレでもパッケリ以外のお勧めに全く興味を示さなかった方々だと思います。
もしくは今のウニが少なく、超高額なご時世に大量のウニを投入したパッケリをすればその方々が沢山お見えになるかも知れません。
ですが、僕の選択肢はウニを使わない、です。
この料理に使うウニは北海道のウニなので、瀬戸内に針を振り切った僕としては潮の香りのパッケリ自体も潮時かな?と思ってました。
しかし、長年通って下さってるお客様は許してくれません。
そう、本当のスペシャリテは人気商品を作ることではなく、お店の自負とお客様からの支持が揃って完成します。ですので、勝手に止める訳にもいきません。
最初の潮の香りのパッケリは僕の経験(過去)と想像(未来)を掛け合わせた、僕の頭の中で生まれた料理です。
今のジラソーレの料理のほとんどは、産地で生まれています。
22年前のナポリから帰って来たばかりの僕が表現する潮の香りは真っ青な地中海の香りだったかも知れません。
今の僕にとってのこの時期の潮の香り、
それは播磨灘の鼠色にほんの少し青と緑を混ぜた様な海が放つリアルな香り。
そこにウニの香りは必要ではなく、この時期にこそ愛でたいものが沢山ありました。
播州の牡蠣、明石の海苔、明石のイカ、淡路の穴子、坊勢のボラ子の自家製カラスミ。
ここにほんの少し卵黄を仕上げに加えたら、播磨灘の香りのパッケリが誇らしげに生まれました。
樂久登窯さんの淡路島ブルーに盛ると、まるで播磨灘の水面ような佇まいです。
課題だったマストロベラルディーノのタウラージ スティレマとのベストマッチもこの料理となりました。
今年は中々良いスタートです。