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ルチャーナ風イカの煮込みと僕(コラム)

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ルチャーナ風イカの煮込みと僕(コラム)

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ご存知の方も多いでしょうが当店にはルチャーナ風スルメイカの煮込みという料理がありまして、自他ともに認めるスペシャリテだと思っています。

 

僕はこの写真を見ると(といってもほぼ毎日作る料理ですが)、懐かしい気持ちになります。

小学生のころ、近所の公園で野球してた情景、グローブの皮の匂い、友達とファンタオレンジを3人で1本飲んだ日のファンタオレンジの美味しさと、3人目だった僕には一口しか当たらなかった事、夕方家に帰る途中、各家庭から漏れてくる夕食の匂いを思い出します。。

カレー、すき焼き、おでん、八宝菜、みそ汁、秋刀魚を焼く匂い。

色んな匂いが混ざると’’日本の夕食の香り’’に変身します。

この料理からは間違いなく’’夕食の香り’’がします。

もしかしたら世界の夕食の香りと言えるのかも知れません。

イカを炊いた香り、みたいに単純じゃありません。

イカの香り、トマトの香りに加えレーズンやナッツが入っています。

これはアラブの影響です。

ナポリは(ナポリ料理は)2度アラブの影響を受けています。

1度目は直接サラセン人から。

2度目はアラブの影響を濃く受けたスペイン人から。

この料理は2度目のスペインの影響だと思います。

(特にスペインのカタロニア料理とナポリ料理は共通点が多い気がしますね。)

このちょっとエキゾチックな香り、トマトの香り、イカの凝縮した香りが混ざると何故か郷愁漂う香りになります。

ナポリで初めてこれを食べたとき、めっちゃ外国の味!!!と思ったのと同時におばあちゃんの味やなとも思いました。

このインパクトと優しさの共存は何なんだ。

滅茶ダイナマイトボディーで挑発的な服装なのに、2人きりになると信じられないほど古風な女性、のような料理だと思いました。

ナポリの修行先でこのパスタ食べながらニヤニヤしてたのを覚えています。

美味しかったから半分、この料理覚えて帰ったら間違いなく行列が出来るなと確信したから半分でした。

ちなみに16年店していますが、行列が出来た事はありません笑

 

他にもスペシャリテと胸を張れる料理はいくつかありますが、ジラソーレにおけるこの料理の立ち位置は,

西城秀樹の傷だらけのローラであり、おニャン子クラブのセーラー服を脱がさないでだと思っています。

2002年のオープン初日のコースにも入れていましたし、今までしてきた沢山のイベントもこの料理を中心に挑んできましたし、小学校の給食もこれを作りますし、もしジラソーレの最終日というのが来るとすれば必ずこの料理も作ると思います。

更に言えば、再出発をするとしてもこの料理から始めるのではないでしょうか。

 

そういえば2002年のオープン当初はタコで作ることが多かったのですが、その後あまりにナポリ風タコのマリネが人気者になり、ジラソーレ美味しいけどタコばっかり食わされるとネットで叩かれた経験もあり、この料理はスルメイカでするのが定番になりました。

当店のカンティーナでアラカルトで召し上がって頂けるほか、3800円のランチのパスタで初来店ぽい方によくお出しします。

アラカルトでは前菜として、揚げたパンの上にイカの煮汁をドパーっとぶっかけてお出ししています。

揚げたパンのカリッとした感じと、油とイカの煮汁を吸って柔らかくなりかけているところのパンとイカの煮込みを一緒に食べると悪魔的に美味しいです。

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もしくはパスタソースとして、主にリングイネでお出ししています。

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こんなに思い入れの強い、自分の一部というか、自分と同化してるような料理ですが、一般的なスペシャリテのイメージのように出し惜しみしたり、店の奥に鎮座させる訳でなく、むしろ店の入り口に立たしています。

誤解を恐れずにいうと僕なりのパブリックアート作品です。

これほど異質さと安心感が共存してる料理もないと思っているのと、いかなる批評にも耐える骨太さがあるからです。

でもその結果、結構沢山の方に僕が受けた同じような衝撃を与えれたようで、常連さんの多くはこの料理でジラソーレにハマったと仰って頂く事は多いです。

そしてこの超古典料理を’’僕のパブリックアート作品’’と呼ぶのにも理由があります。

簡単な例を挙げると、3枚目の写真だけイカが輪切りですね。

以前はこのように輪切りでしたし、ナポリでも輪切りにしていました。

もし僕が地方料理、伝統料理しか作らない料理人なら今もイカを輪切りにしていると思います。

 

でも僕は素材の声を聞いて料理を考えるクリエイティブな料理もします。でも創作料理ではありません。イカなりタコなりアワビなり、色んな方向からつんつんしてやると、時々今まで見せたことない表情を見せてくれます。

その表情を一皿の主題として料理を組み立てるのですが、その蓄積の中にはイカの切り方だけでこんな新食感が出るとか、イカの体表から裏面に向けて一枚のイカでもどう違うかなどの発見が無数にあります。

ずーとイカを扱っているうちに、イカの切り取り線が見えるようになりまして、輪切りをあまりしなくなりました。

そうした新しい発見で新しい料理を作るのはもちろん、これらの新しい発見とはつまり、その素材をより深く理解したという他なりません。

その知識と技術をもって古典料理に取り組むと、古典料理が古典料理でなくなります。

古典料理に見えて、僕しか作れない料理になりえます。

イカの切り方くらいで大層な、と仰る方はホロヴィッツの伸ばした指もそんな事くらいと仰るのでしょう。

僕は表現とか何かに対してクリエイティブであるという事は、実はこういった繊細なアプローチからしか生まれないと思っています。

そしてこれこそがナポリの伝統料理を提供するカンティーナと、クリエイティヴなナポリ料理を提供するオステリアを有するオ ジラソーレの強みだと思います。

 

新たな発見。

ナポリ料理とは、幾多の侵略を受けた歴史的背景から食文化の観点でもギリシャ、アラブ、フランス、スペインなどの影響を受けてきました。

そして今日、遠く離れた日本で生まれナポリで育った、黄色いナポリ人と呼ばれた料理人、杉原の影響を少なからず受けていると言わざるを得ません。

TOTANI ALLA LUCIANA

ルチャーナ風スルメイカの煮込み

現在進行形の伝統料理の最前列の料理です。

初めてジラソーレにお越しになるなら、是非お試し下さい。

 

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