芦屋のイタリア料理とイタリアワインのお店

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寒くなりました。

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寒くなりました。

はい、久々のコラム更新です。

シェフ、最近コラム書いてないねーすら言われなくなる位、ご無沙汰しました。

書けない時は書けない!

開き直っていました。

 

移転から1年、いやもうすぐ1年半になります。

もはや戦後ではない。

戦争も知りませんし、戦後の動乱も知りませんが、今の心境はこんな感じです。

 

決して安定してきたという意味ではないです。

今回のリニューアルは、中々大変でした。

基本的にかなりワンマンな僕が、スタッフを増やし、仕事を分け与え、信頼し、チームで上を目指す。

こう書くとカッコいいし、当たり前の様ですが、逆に言うと自分自身の頑張りに対して、必ず不確定要素があります。

これは僕の性格上、なかなか受け入れられません。

昔、僕は結構ヘビースモーカーでしたが、独立を機に止めました。

今回の移転に向け、健康な体を取り戻すのと、多額の借金をするのに生命保険に良い条件で入るため20kgダイエットしました。

どちらもそれなりに大変でしたが、100%自分次第。

隣国の工作員やイスラム国の人らに拉致されて、無理やり煙草を吸わされる事も、フォアグラ用の鴨のように強制的に何かを食べさせられる事もなく、目標達成。

多少、神に感謝もしましたし、多大な達成感を得ました。

 

ジラソーレをオープンしてもう13年です。

一体何人のスタッフを雇ったのでしょうか。

最短7時間で辞めた人、2日とか3ヶ月とか半年とか、1年続かない人たちが殆どでした。

名前も覚えていません。

でも、自慢は2人オーナーシェフを輩出しました。

福岡のLUCEの大神くんと、倉敷のトラットリア はしまやの楠戸くんです。

あとオーナーシェフではありませんがジラソーレに4年くらいいた谷口くんも、先日とある小さなお店のシェフに就任しましたと報告に来てくれました。

彼らは本当に戦場で一緒に戦ってくれた。

この頃、基本的に休憩全く無しでしたからね。

今みたいに、月一回の連休もありません。

給料も今ほど出せていなかった。

でも彼らは辞めなかった。戦い続けてくれました。

ここで戦い続けた彼らは、今も自分の店で戦っています。

言い方を変えると戦う場所と理由を手に入れたのです。自由に戦えるのです。死ぬほどしんどい事もあるでしょうが。

そして、料理の勉強もしたでしょうが、戦い方を多少は学んだはず。

実際立派に戦っています。

勝たなくてもいいのです、負けなければ。相手は常に自分です。

若いうちに戦わず、逃げて回った人たち。きっと僕を狂人だと思ってるかも知れない。若いうちは誰かの、何かのせいにして逃げれます。

35歳にもなるともう逃げれないですよ。

言い訳も見苦しいだけ。

履歴書のキャリアと実際のスキルも合わなくなります。

最終的にどこで働いてたかなんて雇う側はどうだっていいんです。

あなたがどんな人か、信用するに値するか、そして実際何が出来るか。

それだけです。

 

こんな偉そうな事を書きましたが、実は移転前から最近まで、少しずるい事をしていました。

今の店は構造上、スタッフは僕を入れて6人居ないとエライ目に合います。

スキル云々の前に物理的に6人居ないと戦いにならない。これは経験上分かっていました。瞬間的に5人は何とかなるけど、4人は絶対無理。即、沈没。

サッカーなんかのレッドカードと一緒です。

勝負にならないというか、負けて当たり前な空気になります。

それが本当に怖かった。

定職率の悪さには定評がありましたからね。

取りあえずの頭数は揃ってスタートしたけど、だれかケツ割ったらどうしよう。ずーっとビビッてました。

だからスタッフが辞めない努力、工夫を凄くしました。

まず、あまり怒らなくなりました。

ぐっと我慢。

で、それぞれの長所を生かす工夫をし、苦手な事は無理にさせなくなりました。

褒めて伸ばすように心がけました。

何らかの活躍が出来るよう、考えました。最終的には、活躍してる錯覚をさせていました。

お蔭で1年以上退職者ゼロ。珍しい事です。

 

その結果どうなったか。

僕から笑顔が消えた。

仕事中歌わなくなった。

最も辞めそうな、もっとも僕が気を使った一部の人間が、消費者になった。

スタッフじゃなくなるのです。受け身になる。僕に何をしてもらえるか、この店は自分に何を与えてくれるか、どれだけ楽しいか。

まるで働きながらディズニーランドにでもいるような感じ。

 

参りました。

正直、今までの火事や借り入れの難航より効きました。

思い直したキッカケは芥川賞を受賞した羽田圭介さんのスクラップ アンド ビルドでした。

読まれた方も多いと思いますが、老人介護がテーマのお話しで、主人公の無職(求職中)の青年が、同居している死にたい、が口癖のまだそこそこ元気なおじいちゃんの、青年の母が与えるリハビリ的な家事や身の回りの世話を陰で全部やってしまい、表面的には親切でしているのですが、本心は早く弱らせて完全寝たきりにさせるというお話です。初めて知りましたが、完全寝たきりの介護は重労働だけどある意味楽なんだそうです。そういわれれば、確かにそうかも知れません。人間の尊厳と日々のルーティンな仕事は不仲です。

これを読んで、あ、僕同じ事してると思いました。

猛烈に反省しました。

そして、彼らの為に言った方が良い事は言うようしました。

そして予想通りの結果になりました。

恐れていた4人体制。

既に心身共に摩耗しきってからのこの試練は大変でした。

でも結果良かった。

逆に考えると3人残った。

去った彼らが少数派です。

残った今のスタッフが馬鹿なのでしょうか。

答えは必ず5年後、10年後に出ます。

少し前から6人体制に戻り、伸びしろのある真面目な青年が2人入り店の空気も凄く良くなりました。

時々鼻歌を歌うようになりました。

コラムを書けるようになりました。

もっと楽しく、皆が笑えるような内容ばっかり書けたら良いけど、コラムの再スタートにどうしてもこの事は書いておきたかった。

自分が思っている以上に、このコラムを沢山の方が色んな思いで読んで下さってるようです。

次回、必ず楽しい内容にしますが、今回の内容はこれはこれで、同じように悩んでる会ったことも無い方の励みになるかも知れない。

そう思って赤裸々に書きました。

手前味噌ですが、最近我ながら良い事言いました。

最近入った若いスタッフにサラダの練習をさせています。まずは賄から。

そして営業中も必ず僕がチェックしながら、そっちゅうやり直しになりながらも徹底的にサラダばっかり作らせます。

塩が多い、少ない、酢が多い、少ない、混ぜすぎ、混ぜなさすぎ...

当の本人はなんで??どこがあかんの?と思ってると思います。

だって本人は味見して大丈夫やと思ってしてる訳ですから。

反省してますが、少し前は70点くらいも大目に見てたかも知れません。

今は、入店何か月だろうが、何年だろうが、僕がお金を払って食べたいかどうかの線引きです。

首をかしげる一生懸命な青年に言いました。

 

お前が今できる、一番の俺への復讐は、お客さんに「今日はサラダが一番美味しかった]って言ってもらう事や。

それが一番全員幸せやと思わんか?

 

僕が毎日、全品、全力で作る料理の横でキラッと光るサラダを作る。

簡単ではないでしょうが不可能ではありません。

それが料理の素晴らしい所なんです。

それには勿論、味付けだけでなく、サラダの洗い方、ちぎり方、春夏秋冬での味覚の変化、畑の変化、、全部理解して取り組まないといけません。

でもそれが料理だと思います。

 

相変わらず遠回りしてますが、また一段登ったと胸を張れます。

僕は僕で戦ってますよ。

最近の料理です。

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ウサギの新作です。夏の終わりから秋口にかけて作っていました。

かなりの好評でした。

結構大変な料理。

まず、ゼラチンの多い前足、頭、後ろ足の先っちょとガラを赤ワイン煮込みにします。

その煮汁はソースに、煮込みの肉はほぐして詰め物にします。

レバー、心臓、腎臓は玉ねぎとソテーしてレバーペーストにします。

パサリ易いモモ肉は豚の背脂と一緒にミンチにし、少し合挽きミンチも加えポルペットーネ(ミートローフ)の生地にします。

背肉、腰肉をつなげて1枚物に開いたウサギに、レバーペースト、赤ワイン煮込み、ポルペットーネの生地重ねて詰め物をします。

 

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それからポーションカットしたものを網脂で包んで焼きます。夏の終わりはトウモロコシを散らして、秋口はヨーロッパ産の大ぶりなマッシュルームを添えて。

こういったジビエ以外の肉や魚も一匹丸ごと食べた気がする料理が多いです。

素材ごとの出汁、素材ごとの付け合せ。なんにでも使える出汁は当店にはありません。

 

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こちらも同じノリです。

まず、アワビとヘーゼルナッツのスパゲッティ。

生の殻付きのアワビをダッチオーブンで残酷焼きにし、柔らかく蒸し焼きにします。鍋底のジュとアワビの殻とクチバシを煮出して出汁を取ります。柔らかいアワビ、叩いたアワビの肝、アワビの出汁、滑らかなヘーゼルナッツのペーストでささっと和えたスパゲッティ。シンプルで複雑。調和の中の不協和音。

お次は大羽イワシとナスのビステッカ

大きなイワシは焼くと赤ワインが良い。

あくまでも香ばしさとトロける滑らかさを共存させて。

添えてるナスもビステッカ。

表面は香ばしく、中は艶やかに。

鰯の頭とワタで作った(フォンドボー)

イワシ丸ごと炭火焼よりイワシらしい料理。そこを目指します。

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今年の夏の新作、明石のタコとパクチーとヘーゼルナッツのサラダ

新作と威張りましたが、パクリです。大阪の羽曳野にある海鮮中華の名店、季し菜さんでタコとパクチーのラブストーリーを見てしまいました。

自称タコオタク、タコとイカに関しては天狗になってましたが鼻を折られました。

お見事!!!!

早速パクリました。

ナイスパクリ!

岸菜さんにも食べて貰いたい、怖いけど。

 

サワラのタリアータ イチジクとクルミのサラダ添え ゴルゴンゾーラのソース

続いて最高に美味しい秋のサワラ。瀬戸内の宝です。生で食えます!

皮目だけ超強火で焼いてタリアータとします。

これにアマルフィー名産、イワシの魚醤をぶっかけます~

油脂は使いません。サワラの究極にエレガントかつ爆発的な脂で食べて欲しいから。

何を血迷ったか、温かいゴルゴンゾーラのソース。

下にひいたイチジクとクルミ、ルーコラ、鰆、ゴルゴンゾーラを一緒に召し上がって頂くと地球の味がします。

戦争してる場合じゃないです。この星はこんなに豊か。争わなくても工夫して分け合えばこんな口福がまだまだあるはず。

 

明石の天然真鯛の炭火焼き 蕪入りアクアパッツァのソース

そして明石の天然真鯛。

やっぱり1キロ超えると違いますね。白身の王者らしく口の中で静かに暴れます。

鯛のフィレはミディアムレアに炭で焼きます。

大きな頭と、これにもお金払ってんねんなというしっかりした中骨を、さも身が付いているかの様にアクアパッツァにします。はい、煮汁は完璧なアクアパッツァ。これの汁だけソースにします。

何度かコラムで書いてきましたが、基本的に僕は日本の魚でアクアパッツァはしません。身質が良すぎて煮汁が馴染まない。

強いて言えば、アコウ、金目、石鯛、メバルはアクアパッツァ向きと思いますが、真鯛とか正直ダメだと思います。

誤解を恐れず言えば、真鯛は生が一番美味しいと思います。

でもこの秋の紅葉鯛と呼ばれる鯛を炭火で優しくパリッと焼くと、これまた唯一無二。ほんのりエビの香りがします。エビを食べまくってるんですね。もしかするとエビアレルギーのかたはダメかも?

このジャストに焼いた鯛に鯛から取ったアクアパッツァの汁で食べて貰う。そのままじゃシャバシャバ過ぎるので、蕪をすったの投入。

良い濃度。

和食っぽいて何人か仰ったけど、まあ食べてみて下さい。

昔ルーコラが日本に入ってきたころ、よくゴマの味がしますなんて言ってましたが、今はそんなこと誰も言わないです。

それは皆ルーコラの味を理解して、ゴマとは違う事が分かったから。

ルーコラの味をルーコラの味として捉えるのに、生ハムとロースハムが違うことを理解するのに多少時間は掛かりました。

日本の兵庫県の南部で本気でイタリア料理を作るという命題ででた一つの答えです。

レシピありきの料理より、素材ありきの料理が正しいと信じています。

 

少し吹っ切れた様です。

これからもよろしくお願い致します。

杉原

 

 

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